青春の思い出 ~金の翼~
当時はバブル絶好調!の時代であり、街中にもカラフルなカウル付きのオートバイが走り回っていた。
私は春に一年車検を通した、愛車CB750Fourで171号線沿いのヤマハオートセンターに来ていた。「何か掘り出し物の珍しい単車ねえかなあ。」という暇潰しであった。
「ああ、今日も大した単車はなかったなあ」と思い帰ろうとしていた。
駐車場には、中型小僧達のヨンヒャクが並んでいたが、全く気にせず単車に跨がった。
右側のミラーから小僧達の視線が自分に向かっているのが判った。嬉しい。
「あれはケイゼロか?」とかの会話まで聞こえる。
「しょうがねぇなぁ」
とメットの中で呟きながら、左手で下も見ずに、正確にキーを差して見せた。熟練した4気筒乗りなら誰でもやって見せる芸当である。
ちらっとミラーを見ると、どんな音がするのか興味津々である小僧達の唾を飲み込む音まで聞こえる様だ。キーを捻り、セルでエンジンを掛けた。アクセルさえ開けなければ、さほどの音量は出ない。しばらくアイドリングさせてから、グローブはめて、身仕度して、やおら、
ズオン!
と一発!
小僧達の驚愕の表情に、さらに追い打ちの一発!
ズオン!
ローに入れて、ゆっくりと彼らの前を通り、171号線に出る前にちゃんと一旦停止。ここからの出足と排気音が勝負である。
車が途切れたのを見計らって、仕方ないから、ローで全開してセコまで聞かせてあげた。小僧達には素敵なプレゼントになったであろう。彼らにはこのROCKなオートバイを理解するには、もう少し時間がかかるはずだ。
しばらく西宮方面に走って、信号待ちの先頭に止まった。初夏の日差しが心地よかった。
スッと右側に太いピカピカの前輪が止まったのが目に入った。明らかにタメ線をはって来た。
右側を見たら、クリーム色のピカピカのホンダGL1500であった。昔の免許に最近のバブル景気で、小金をため込んだらしい、小柄な親父が無理して冷や水掛けてるな?
と思った瞬間、親父が二回ワンワンと素晴らしい静粛性を持った水平対抗6気筒を吹かした。
カチーン!と来た。
「こいつも、さっきの奴らと一緒で, しょうがねぇなぁ!」
とメットの中で呟いたが、しかし、少し心が踊った。
向こうは、やっと慣らしを終えたような新車。しかもアメリカン。ライダーはバブル成金親父。
こっちはバリバリのスポーツ車。路上の帝王、20世紀最大のオートバイと呼ばれたCBナナハンである。しかも一年車検で武装している。(?)
反対側の信号機が黄色になった。
ここで、一発ズオン。
クラッチを良く切って、ローにシフト。バチャンとチェーンが波を打つ。
今日もクラッチ切れねえなぁ、
と一瞬、不安がよぎった。
まあ、4000回転ぐらいで勘弁してやるか。と思ったら向こうが赤。
息詰まる数秒間。
青!
右肘を下げるのと左手の握力を弛める、このバランスさえ外さなければ、こういう勝負は負ける事はなかった。
ローで出た。隣の六気筒もやはり引っ張ってついてくる。
想定していた4000をすぐに越えた。まだ向こうも乗ってくる。
7500過ぎで2速!この瞬間に右手の六気筒がローのまま一馬身抜き出た。
あれれ?
セコでも全開したが、六気筒の左足が今頃ゆっくりと余裕かましてセコに入れるのが見えた。グイグイとその差が開いて行く。
あれれ?あれれ?
路上の帝王は今日は休みか?
ずいぶんと向こうは先にいっちまいやがった。
頭の中で、ROCKは鳴り止んで、代わりにお寺の鐘が鳴った。
次の信号待ちでの戦い。
お互いまたしてもタメ線張りながら止まった。
信号待ちの間、今度は、超マジで行ってやる!と決心した。
ゆっくりとクラッチを切ってのロー。
クソウ!今度は6000で繋いでやる!
反対側が黄色、そして赤。
息詰まる時間。
そして、青!
一気に6000まで開けて左手を緩めた!
向こうも結構マジで吹かして繋いでいる。前輪半分だけ元帝王がリードした。
タコはもうレッド!即セコ入れてまた全開!
向こうはローからセコに入れたとたんに、グイグイ加速すると、ブロックするように、CBの前に出ると、でっかいトランクを見せつけ、ラジオのアンテナをビュンビュン揺らしながら走り去って行った。
もう最新型相手にROCKな走りはやめようと心に誓った。
そもそも排気量が二倍の単車に信号GPを挑んだ俺が悪かった。
以来、信号待ちでは、絶対に勝てそうな奴とか、向こうから「おおっ!CBナナハン」とか、敬意を払ってくれそうな連中しか相手にしない。ROCKな走りは自重している。
でも、カワサキのW1SAが並んだら,やっぱりやるよ!
執筆 猫の顔