旧車用語の基礎知識
結構、そのいわれとかはご存じない方もおられるのではないかと思います。また、異説のある方は、ぜひともコメントを入れてくだされ。
1) プライマリーキック
これは、ギヤがどの位置に入っていようともクラッチさえ切ればエンスト時にキックで再始動できる機構のものである。
もともとはオフロード車で発達した機構であるが、オフロードでのレース中に転倒等でエンストした際に、いちいちニュートラルに戻していたのでは時間がかかるので、キックギヤが直接クラッチアウターを回し、エンジンのクランキングをできる構造としたものである。クラッチ以降では、何速にギヤが入っていようと関係なく、クラッチさえ切ればエンジンが始動できるのである。
なお、キックはほとんどが車体右側についているが、まれに左側についている車両もある。スズキのGT500や、GT250、78年ごろの空冷2ストモトクロッサーである。これはこれで一理あるのである。というのは、車体に跨らずにキック始動できるのである。よって、1本サスが各社で採用される前の2本サス市販モトクロッサー(ホンダのCR250Mとか)は左側についていた。これは年々増大するクッションストロークのためにシート高さが非常に高くなり、跨るのも大変であったためである。シートも食パンのような厚みがあったなあ。なお、エンストとは「エンジンストップ」と思われているが、正確には「エンジンストール(失速の意)」の略である。
2) キルスイッチ
ハンドルバーの右手のアクセルのすぐ脇にあり、紛らわしいことに「エンジンストップ」とか記載されていたりする。このスイッチを初めて搭載したのはホンダのCB750Fourであると記憶しているが、本来の設置の目的は、重量車の場合、走行中の転倒ごときではエンジンはストップしない。右側に転倒してアクセルグリップが着地して固定されたりした場合は、負荷少なくなった後輪が勢いよく回転することになる。こうなるとライダーがはさまれたりして危険だから、瞬時にエンジンの停止を行うためのスイッチである。
昨今の若者は、乗車中から停車すると、このスイッチを操作してエンジンを停止したり、またそのまま、メインキーを切らずに降車してそのままという不届き者がいる。バッテリー点火車なら、一次側コイルを焼くであろうし、CDI車なら、コンデンサーのパンクを誘発するので注意が必要である。これは真実である。
エンジンストップスイッチではあるが、その使用にさりげない心遣いから愛車を労わる気持ちが溢れるものである。キルスイッチは、あくまでエマージェンシーであるからエンジンを切る場合はメインキーで切るのが正しい単車乗りである。
3) デイマースイッチ
これはかなり古い言い方である。年配の方でしかわからないであろう。ヘッドランプの上下の切替えスイッチのことである。
CB750Fourの場合、K2までは、右手にあり、しかも上下の間にポジションランプが入ったりするから、上下の切替え最中に一瞬だがヘッドランプが消えるのである。筆者のCB350Fourもそうであった。これは右手にあったり左手にあったり、各社その位置はばらばらであったが、この20年でようやく集約されたようである。オン、オフ問わず現在は左手にあるのが一般的である。その昔は、メインキーで行っていた車種があったぐらいであるから、現在では考えられない。
4) ホットパッチ
これも年配の方しかわからないであろう。チューブタイヤの頃、パンク修理にはコールドパッチとホットパッチの両方が存在した。バイク屋、自転車屋ではガソリン、機械油等の可燃物が存在することが多く、次第にホットパッチは消滅した。
ゴム糊の代わりに、パンク修理のパッチの背中についた火薬に着火し、その熱でパッチゴムを張り合わせるというものである。対して熱を使用しないゴム糊方式をコールドパッチという。やっぱし、知らねえだろうなあ。
5) シールドビーム
現在はハロゲンランプ全盛であるが、30年前は、そうでもなかったのである。ハロゲンランプ装着!がカタログに誇らしげに記載されていたのである。
いわゆるハロゲンランプ(バルブのみが交換できるもの)が出現する前は、このシールドビームが主流であった。これは、ヘッドランプ自体が巨大な電球と思えばよい。よってタマ切れの際には、ヘッドランプごと入れ替えるのである。これもやっぱし、知らねえだろうなあ。
6) 対向ピストンキャリパー
ディスクブレーキはCB750Fourが初めて採用したが、そのキャリパーの動きは、実は回転式(?)であったのである。キャリパーの片側にだけピストンが設置されており、ディスクプレートの反対側のパッドにはブレーキフールドの入るピストンは設置されていない。もしかしたらコストダウンのせいなのかも知れないが、あくまでフールドが押すパッドは、ディスクの外側だけである。これの改良版が「ピンスライド式」のキャリパーである。カワサキZ2とかがこれである。さらにもっと進んだのがヤマハの「対向ピストンキャリパー」であり、ディスクプレートの内側、外側の双方にキャリパーが存在する。
いまではフローティング式やらインボード式やら色々と発表されているが、30年以上前のディスクブレーキなんて、現在の効き味からみたら、その存在すら疑うようなレベルであろう。
ディスクブレーキがドラムブレーキを凌駕した理由は、高い放熱性と泥噛み等の異物混入に対しての性能低下が無いこと、バネ下荷重の低下である。
Z400FXに設けられた不等ピッチ穴の意味は、「ディスクの軽量化」、「放熱性の向上」、「パッドを常に削るので、パッドの硬化による性能低下が少ないこと」、「ブレーキング時のパッドからの振動の発生周波数が等ピッチ穴ディスクより、車体が共振しないような周波数にできること。等ピッチでは、ある種の共振点が発生してハンドリングに影響がでる。」、そして「男はカワサキの無骨なイメージを演出できること。(?)」である。これらの理由からカワサキは不等ピッチのディスクを採用していたのである。
7) ビードストッパー
これはチューブタイヤで、車両によっては高トルクで加速する際に、チューブの虫バルブ部に無理がかからないように、タイヤのビードをリムの内側から密着してタイヤがずれないようにするためのものである。虫バルブの反対側あたりに、虫バルブそっくりの外観で立っている。カワサキのZ2では標準装備されていたのと、特にオフ車の250ccクラスでは各社ともに標準で装備されていたし、市販モトクロッサーでも装備されていた。オフ車は、泥濘地では空気圧を下げて走るので余計にタイヤがずれて、虫バルブに無理が懸かりやすい。ホンダのTL125バイアルスでも標準装備であった。トライアル車では、空気圧を0.4気圧程度で走るらしいので必要なのであろう。
8) ドライブチェーンの伸び
ドライブチェーンが伸びて、時たまチェーン調整が必要な理由を正確に説明できる人は少ないのではないか?
チェーンのコマ自体の大きさが膨張するのではなく、コマとコマを連結しているピンが、砂やら走行中の摩擦熱で微小に摩耗していくのである。この微小なピンとコマとのずれが全体でチェーンの伸びになっていくのである。
ためしに、ずいぶんと走りこんで廃棄する直前のチェーンを外して横に持ってみると、驚くほど斜めに垂れ下がるのである。新品は棒の様にほぼ水平に形を保つのである。
このピンの耐摩耗性を向上させるためにグリス封入式のシールチェーンが開発されたのでありその目的は十分に達成されたのである。
いろいろ述べましたがまた次回といたします。
異論等お持ちの向きはぜひともコメントをください。
みんなで旧車の話で盛り上がりましょう。
