ツーリングの季節
ツーリングが似合う季節である。
もう30年も若い頃、ホンダCB350FOURでのツーリングの時には、オフロード車に荷物満載のツーリングライダーに街道筋では良く出会った。特にホンダの赤いXL250Sには多数出会った。当時のベストセラーモデルである。
みんな、テントやらシュラフやらゴムひもで、山の様にくくりつけていた。ステンレスのマグカップなどは外側に直に結わえてあった。リヤの巨大な荷物に比較してフロントのタイヤの細さが強調されて、何ともアンバランスな格好で走っていた。旗を立てている者もいたな。
旅慣れた人の荷物は、きちんと整理されて積載してたが、二十歳そこそこの若いアンチャンの場合はとりあえず積載したという風の積みかたであった。ひと休みすると、取り出したタバコがハイライトで、缶コーヒーの缶が灰皿であった。ペットボトルなんてのは、地球上になかった時代である。
手首は日焼けとススで、赤黒くなっていた。色褪せた半袖Tシャツの腕も赤黒く焼けていたな。時計の跡もくっきりとあった。チェーンも伸び伸びで、ひと休みがてら、荷物降ろしてチェーン張りなんか始めたりしていた。フロントフェンダーはいつかの転倒で割れた跡を、針金で縫ってあった。
レバー類の先端は当然、折損してたが、本人は、ハイライトの紫煙を吐きながら軽量化とのたまっていた。ハンドルの右側には、これまた針金でプラスチック製の安物の油差しがプラプラとぶら下げてあり、ロングツーリングという非日常の世界を適格に表現していた。
ミラーは左右ともバラバラのミラーは当たり前。シューズの左足の親指の部分には開いた穴をガムテープで補修済み。そんな男たちと出会ったのは、やはり夏であった。キャンプ場で飯を食うのも、湯をコッヘルで沸かして日清焼きそばUFOだったりする。寝酒はサントリーのホワイトでちびちび。語り口に訛りがあって、おもしろかった。
そして、それらの思い出の夏は、何と30年も前の話なんだな。
おもしろかった夏だった。笑える単車野郎にたくさん出会った、楽しい夏だった。
また夏が来る。もうあんな真似は出来ないけど、また素晴らしい単車野郎に出逢える夏であったら、どんなに楽しいだろう!
あぁ、家も嫁さんも子供も会社もすべて忘れて、ロングツーリングに行きてぇ!
執筆 猫の顔
