国産4サイクルオフロードの変遷
国産4サイクルオフ車を語るときに、我々の世代で最初に思い出すのは、なんといってもホンダXL250Sであろう。それまでの鈍重なイメージのXL250とは違い、軽量に絞り上げたスタイル、派手な23インチのフロントタイヤ、必要十分な20馬力のエンジン。真っ赤なカラーリングをまとい、我々の前に搭乗したあのXL250Sである。
79年に発売されたこの二輪のカタログによれば、エンジン、フレームがすべて新設計である。またカタログも非常にメカニズムの解説の多い、濃い内容である。特に軽量化については「グラム単位」とうたっているぐらい軽量化の達成を訴えている。そしてその結果、街中にあのでかい23インチのタイヤのオフ車が走り回るぐらいベストセラーになったのである。軽いということは乗車中のいかなる場合もライダーに非常に有利に働くものであり、市街地でも、ラフロードでも十分な動力性能を発揮したのである。その軽量のせいで、女性ライダーが数多く発生したのも事実である。それまでには前述したXL250があったが、いかんせん4ストゆえの鈍重なイメージが付きまとったのが、販売結果に影響したのである。これに業を煮やしたホンダがXL250Sを投入したのである。
既にカワサキからは、KL250というモデルもあった。これは、エンジンはバランサーなしの4サイクル250OHCエンジンで、全体的に小さくまとまっていたモデルである。筆者がチョイ乗りした感覚では、全域でステップ周りに非常に硬派な振動が発生しており、長時間のライディングには多少疲れる気がしたものである。ただ、エンジンからの1次減速のギヤ音が非常に楽しく、加減速を繰り返してその音量を楽しんだものである。そんなによく売れたモデルではなかったが、長生きモデルであり、82年ごろまでライムグリーンのカラーリングで発売されていた。
大型車ではヤマハXT500がすでに発売されていた。SRの原型モデルである。非常に強力なSOHC500の単気筒エンジンを積むこのモデルをオフロードで振り回すには相当なテクが必要であったに違いない。たしかカタログには「トルク乗り」という語句が記載されており、その充分な低中速トルクを活用しての、加速は痛快であったであろう。でもあまり売れなかったモデルである。ホンダからはXL500Sという更なる強力版もあったが、250に押されてほとんど見たことがない。この2台がトルク乗りのできる2台であろう。
シルクロードCT250というのもあった。シングルシートと小さいタコメーター、キャリヤが印象的であったが、これまた珍車である。セル付きであるからエンジンはRSZと同じ造りであろう。
81年にはヤマハからは、キッチリ気合の入ったXT250が発売された。21馬力。空冷単気筒エンジンには特段の魅力は無かったが、なんといってもリヤサスがモノクロスサスであった。このモノサスに初めて跨った時の感動は、今も残っている。跨ったのは、実はDT125であったが、なんとも言えずしっくりと沈むサスには憧れたものである。このサスでオフロードを存分に走り回りたいという欲求に駆られたものである。フロントフェンダーのエンジン側には冷却用のスリットが確保されているという親切設計であった。効果はあったのだろうが、雨降りのときには、ライダーは閉口したはずである。
スズキからはDR250が発売された。この単気筒250SOHCエンジンのベースモデルは輸出用の350らしいが、これまた企業色の黄色のボディで発売された。販売実績は、結局目撃したことがないから、あまり売れなかったのであろう。
そうこうしているうちに、オフ車にも熱い戦いが繰り広げられるのである。
ホンダはXL250Rを出した。プロリンクサス搭載である。そして待望のタコメーター付きである。当時流行のパリダカールラリーに出場したのにちなんで「パリダカ仕様」というのも販売された。ドでかいガソリンタンク、トリコロールカラーでムード満点であった。ちなみにオーナーに訊ねたら「ガソリン満タンとカラでは、走りにえらく差が出る。」とのことであった。縮小版の125と200も発売されたし、XL400Rもあった。これもレアなモデルである。
いつごろからか、ホンダのXL500Sのエンジンが、多少無理をすればXL250Sにも搭載可能という情報が流れ始め、実際に搭載したモデルも雑誌で紹介されたりしたが、写真では実に窮屈にフレームに収まっているのであった。400に500エンジンなら理解できるが250に倍の500エンジンはどの様な走りを見せてくれるのか興味深いものである。
そこでヤマハからのDOHC4バルブ搭載のXT250Tの発売である。筆者はこのXT250TとホンダのXL250Sが80年代の4ストオフ車の名車であると結論する。
DOHC4バルブにYDISなる2種類のキャブを搭載し、全域での俊敏なアクセルレスポンスを確保しているのと、高回転域まで信じられないくらい一気に回るエンジンであった。なお、リヤサスは2代目のモノサスであり、キラキラと光るアルミのスイングアームがカッコ良かった。対抗馬のXL250RはXLX250Rとなり、RFVCエンジンを搭載したが、スイングアームが高張力鋼のままであり、エンジン開発費用が車体回りの装備を圧迫した例の最右翼である。この次のXLR250では、アルミスイングアームとなっている。XT250Tに遅れること2年である。
カワサキからは水冷のKL250Rが発売された。なんと水冷モデルである。しかも冷却ファン付きである。でもあまり売れなかった。
この80年代の後半になると、オフ車の主流は、水冷2ストになり(もともと2ストが本流か?)各社共に気合の入ったモデルを発表するのであるが、あの、エンジン始動後のフロントフェンダーをユサユサと振りながら暖機するその姿が4ストオフ車の魅力である。フル加速時にマフラー後端から歯切れのよい排気音を後続者に浴びせ、土をかきむしりながら走り去るのが、まさにランドスポーツである。市街地でのシグナルGPでの隠れた穴馬がこの4ストオフ車である。仮にVTやGSXに負けても、次の信号でいきなりウイリーを20mほどして見せれば、バカ受けの大逆転勝利である。
この季節には、実に数多くの4ストオフ車のツーリングライダーに出会ったが、ツーリングにももってこいの車種である。
現在は2スト車が滅亡したので4スト車だけであろうが、気合の入った硬派な男のオフ車が少なくなった気がする。別に初心者や女性ライダーに、こびなくてもよいではないか?ハイキングとかトレッキングに使えなくてもよいではないか?
熱い男のための、熱い4ストシングルオフ車よ、どこからかもう一度出てきておくれ!
執筆 猫の顔
