空想バトル~CB650~
私は念願の650を手に入れて有頂天である。
今日は高速道路やら一般市街地やらを友人のCB750Fourとランデブーで北陸地方まで一泊2日の合計1200キロメートルのツーリングである。ガソリン満タン。オイルも交換済み。暖気もそこそこに待ち合わせの東名高速川崎インターまで走っていた。
長い間、ナナハンに乗っていたせいか、ロクハンのフル加速も、そう驚く物ではないが、スピードのノリが明らかにナナハンよりシャープだ。ナナハンは重量を強大なトルクでグイグイと暴力的に引っ張るが、この650は明らかに違う。ナナハンよりかなり軽い車体を、適度なトルクでジェントルに引っ張るのである。ナナハンは後ろから押すがこの650は明らかに前から引っ張るのである。
加えて、その静粛性である。それは早朝の信号待ちで良く解る。アクセルを離した時から訪れる静かなアイドリングには 助けられる思いがする。ナナハンでは、その特徴的な排気音の為に、ついスロットルを無造作に開けて、豪快な排気音を楽しみたい衝動に駆られたものだ。650は違う。あくまでもジェントルな走りと存在感を周囲に問いかけながら乗る単車だ。
気分は東名高速でのクルージングをいち早く味わいたい思いがあるのだが、自制して走る。ほどなく、東名高速川崎インターに着いた。ナナハンの友人はまだの様だ。煙草を吸いながら待つことにする。遠くから例のHM300の排気音が聞こえて来た。友人も慌てて来た様だ。海老名のSA迄走って朝食とすることになった。
天気は快晴である。私は650の高速性能が如何なものか、セコ、サード、フォースとレッド迄引っ張って見た。エンジンノイズはあくまでも少ない。排気音もナナハンとは比較にならない位落とされている。あくまでもジェントルなスピードのノリだ。良かった。ナナハンの様な爆音たててのクルージングではなかった。140キロ辺りでしばらく流してみるが、あくまでもジェントルな乗り味である。まだ、がらがらに空いている東名高速の真ん中車線を快適に走る。やや遅めのトラックを追い越す為に、静かに右にレーンチェンジする。しなやかな運動性能である。さらに、5速のまま、アクセルを開けて加速する。さすがにこの速度域ではナナハンと同じとは言えないが、緩慢では無い加速を見せるのは650の意地であろう。そのままトラックをパスしても重量車らしく風の影響はわずかである。
そろそろ相方のナナハンは?と思い、右ミラーを見ると、ちゃんと追尾している。またもやトラックだが、あっさりレーンチェンジを繰り返して次から次へとパスしていく。これだから重量車での高速クルージングは楽しいのである。ナナハンは心配していたオイル上がりの白煙も無く、きっちり付いてくる。
このまま海老名まで一気に走ってしまおう。早朝なので警察はいない。快適なツーリングである。車間は 50メートルほどあるだろうが、豪快な排気音はこちらまで聞こえている。向こうも調子は良さそうだ。かなり前方に、少し落としたガンメタのスカイラインがいる。リヤから太いステンレスのマフラーが見え、オーナーの趣味が伺える。
チョイと遊ぶか?
まずは背後にぴったりと付いて、しばらく並走する。ドライバーがこの650に気付いてからがゲーム開始だ。いきなり奴は3速に落としてフル加速を始めた。こっちも3速から付き合う事にした。
奴の排気音が加速を示す。こっちもタコメーターの針が一気にレッドの手前まではねあがる。そのまま全開!レッド越えてもなお全開!スカイラインは4速に入れた。こっちも4速全開!スピードメーターの針がグングン伸びる。
まだまだ加速して付いて行く。650もまだ余裕はありそうだ。
緩い左コーナーに入る。ロクハンの挙動は安定しているが結構キツイ。最後まで競争してやれ、とメットの中で思った。
直線で不意に奴が左のウインカーを出した。左側の走行車線にエスケープした。奴はこの高速に負けたのだ。腕の無い奴だ。やはりこの650は、大した単車だ。この大した単車を奴を見せつけるためにも何としても、抜くのだ。抜いてこの650のサイドカバーの650の文字を見せつけなければならない。こんなに素晴らしい二輪車があった事を知らさなければならない。
無理して抜いてやった。奴は左側サイドカバーの文字を読んだだろうか?この時のスピードは175キロであった。
友人のナナハンはずいぶんと後ろにいて、一部始終を見ていた。ホンダの650の底力と勇姿を見てくれただろうか?やはり、ホンダのSOHC四気筒は強い。高速走行でもびくともしない。
海老名はもう少しである。
次の海老名SAで二台で休息をしている所にさっきのスカイラインがやって来た。負けたクセに排気音だけは、ズボボボーとうるさい。サスペンションが固く、低速でのボディーの挙動が落ち着かない車だ。スカイラインにはよくある挙動だ。
そのドライバーが降りてきた。若い30前の痩せた青年だ。キリンなら「若造」というだろう。こっちを見つけて近づいてきた。
「やっぱりCBナナハンは速いですねぇ!」
650と750の区別もつかない素人だけれども、やっぱり俺の650は最後まで地味な存在であった。CB650売れなかった理由が痛いほど解った。多分、みんな、間違えられて嫌気が差したのだな。俺も辛かった。
頑張ったのになあ。
執筆 猫の顔
