22度のひねり
事実、中型車両のGL400でも車重が200kgを超えるという重量級である。
車体周りには特に珍しい機構は装備されていないが、なんといってもそのエンジンには、ホンダならではの、「よそとは違ったもの」、「今までにはなかったもの」というアイデアが満載されているのである。
発売当初の1977年12月にはすでに二輪車のエンジンは実用車を除き、DOHC化が進み始めていたのにもかかわらず、そのエンジンはなんとOHVである。あの、650W1Sと同じOHVである。OHVエンジンは、二輪、四輪を問わず、長らく4サイクルエンジンの主流的な弁機構であったのだが、そのプッシュロッドの慣性やたわみから、高回転エンジンには不向きとされていた。
ホンダはこの常識を、その独創性で見事に解決してみせるのである。出来上がったエンジンの最高出力は、実に48PS、9000rpm、96.7PS/1ℓであり、以前に自身の作成したCB750FOURの67PS、8000rpm、91.0PS/ℓを簡単に凌いでいる。これは、ビッグボア、ショートストロークと4バルブの成せる技であろう。ビッグボア+4バルブにして、吸気効率さえ確保すれば簡単に出力は4気筒並みが確保できるという話である。その4バルブをOHV機構でまかなっているのである。
さらにこのエンジンは、縦置き(クランク軸は車体と同じ方向にあること)クランク軸を採用し、Vツイン(はさみ角は忘れたが)とし、そのシリンダーはさらに22度外側にひねって設置されるという凝りようである。このシリンダー配置によってこのエンジンの圧倒的ボリューム感は確保されたのである。
実車に跨り、上からエンジンを見ると、エンジン頭部には黒いプラグキャップが刺さっているだけで、エアクリーナーからキャブが複雑なカーブを描いてシリンダーに接続されている。水冷のためにフィンの無い茶筒のようなシリンダーはその下の太鼓のようなクランクケースから突き出ている。排気管は太く力強く外側に向かってシリンダーから出ており、このボリューム感は仕上げの良いアルミの質感を伴い重量車としてはたまらない魅力を持つエンジンとなっている。
これだけのエンジンの冷却には水冷となったが、そのラジエーターは黒く大きい。スズキのGTのような冷却ファンも設置されているのと、走行中の自然風で、張り出た2つのシリンダー外面は冷却されるので十分なのであろう。
さらにこのエンジンは、その後にはターボを追加して、76PSという高出力を発生し、その上、スープアップした650ではターボをつけて100PSを発揮する(最初期の実に2倍の出力である!)のであるからよほどエンジンに余裕のある造りであったのであろうし、その冷却性もやはり十分であったのである。言い換えれば22度外側に張り出して空冷も期待した設計は正しかったのである。
エンジンの挙動については(後輩のGL400カスタムに乗った時の印象であるが)、アクセルを開けると、多少ではあるが車体がトルクの反力で身震いするのが、直列エンジンしか乗ったことのない筆者には非常に新鮮に感じたものである。ホンダはこの反力を「クラッチとドリブンギヤを逆回転させること」で解消していると謳っているがそれでも多少はあったのはやむをえなかったのであろうし、それは決して不愉快な振動や挙動ではなかった。ただし、駆動がシャフトであったのでもしかしたら、雨降りのシフトダウン時にはリヤがスキッドするのではないかと心配したりもしていたが、雨天での試乗はしたことがないので不明である。ちなみに、ヤマハのXZ400の晴天時での試乗では簡単にリヤタイヤはスキッドを起していたのでシャフトドライブ車はあまり好きになれないのが筆者の感想である。
この独創性の塊のエンジン音はさすがに今までの排気音とは異なる変わった音であった。
確かに低音の歯切れの良い音ではあったが、いかにもガスを食いそうな低音であった。しかしアクセル全開では信じられない勢いでタコメーターの針が上昇していき、そして耐え難い様な振動もほとんど無い静かな優等生のエンジンであった。これも水冷の恩恵であろう。
メーターパネルはヘッドライトケースと一体型である。往年のCB450とかと同じ手法であるが、そのムードは明らかに現代風の配色であるし、なんといっても赤い針と水温計が目を引くのである。某誌の愛車レポートでは、夜間はこの赤い針が全く見えないことを欠点として挙げていたのを覚えているのだが、昼間見る、この赤い針は非常に衝撃的な色合いであった。
始動はセルのみである。この複雑怪奇なエンジンを通常のキック方式で始動する構造はさすがのホンダの設計マンも面倒臭くて考えもしなかったのであろう。もしかしたら昔のBMWのような横踏み方式のキックとなったかもしれない。
このころからセル始動のみの二輪車がぼつぼつと出始めたのである。これはホンダが色々な車種のカタログでもさかんに謳うように「効率の向上したジェネレーター」の開発に成功したのと、バッテリーの性能向上が理由である。筆者も長らくCB750FOURを愛用したが、毎週乗っていれば、バッテリー上がりのとき以外にはセル始動のみでキックは必要なかったのである。
車体周りでは、フレームはなんとダイヤモンドフレームである。あの巨大な重量物のエンジンをダウンチューブなしで支えて問題なしとは、少々意外な気もする。しかしこの「エンジンをもフレームの一部として強度も持たせる」という設計方針はその後のKAWASAKIのGPZ900Rも同じダイヤモンド方式で同様な理由で懸架されているのであるから、非常に先見性のある設計であったのであろう。
リヤサスはホンダお得意のFVQダンパーである。最終型に近くなると、プロリンクサスが装着されるが、そのプロリンクサスでのスイングアームとシャフトの取り回しは非常に困難したに違いない。
このように非常に独創性の凝縮したようなGL500/400であったが、よく売れたのは、予想を反してそのアメリカンモデルのカスタムであった。大きくプルバックしたハンドル。ラジエーターカバーやメッキのメーターカバー、ショートカットされたマフラー、さらに低くなったシート、太いリヤタイヤがアメリカン気分を盛り立ててくれていた。
奇抜なエンジンのはさみ角による不規則な振動が、またアメリカンにはよく合ったのであろう。それほど飛ばさなければ十分にツーリングで心地よい振動を味わえるだろう。
なお、この二輪の最大の欠点は、ガスの大食いである。実際に20km/ℓ以上を達成したことのあるオーナーはぜひとも連絡ください。それほど大食いであったのである。それもそのはずである。200kgを超える車体を運んでいるのだから。
R246の信号待ちで、俺のCB650の真横に赤いGL500がスッとタメ線張って停まった。
「おいおい、困るなあ。ちょっと先のあのコンビニで話しようぜ。あんたも好きなんだねえ。」
と、メットの中でつぶやいた。しかもGL500である。
こうしてコンビニの駐車場で、缶コーヒーと煙草が旨いので嬉しいんだが、初対面なのに話がはずむのがまた嬉しく、楽しい秋の夕暮の風景を夢見るのである。
ピース!
執筆 猫の顔
