ヤマハ2気筒スポーツの残像
もう40年も前になるだろうか。二輪雑誌の国産車アルバムでは、国産4メーカーの代表機種が色々と掲載されていたのであるが、重量車はマルチエンジン車が続々と発表されてきていたのであるのに、ヤマハだけはむしろ固執したように2気筒ロードスポーツ車のみを発表、発売していたのである。
その理由は今となっては明確に調査するすべもないのだが、ヤマハは二輪車の最も楽しい場面は「コーナーリング」と想定していたのではなかったかと思うのである。
古くはYDS1、その後のDS5E、DS6、R1(三億円事件で有名になった二輪である。)、RX350、DX250とかが、周囲がマルチエンジン、4気筒と向かう中でも頑なに2気筒で発表されるのである。しかも、初の4サイクルエンジンを搭載した650XS1でさえも、2気筒であり、これはのちにTX750、TX500というモデルに繋がりシリーズを形成するのであるが、頑なに2気筒である。
本来2輪車のエンジンはコンパクト、ハイパワーを要求されるのであり、各社はこぞって4気筒エンジンの開発に傾倒するのであるが、ヤマハは最もおいしい瞬間であるコーナーリングを満喫するのであれば、2気筒で十分の姿勢を貫くのである。
確かに4気筒エンジンの豪快な加速感、加速と共に連続して高揚するエンジン音は、4気筒の独壇場であるが、反面、重量、整備性の悪要素も出てくるのである。
ヤマハは、この重量に特に注意を払い、いずれの時代も軽量、引き絞った体躯の2輪車を世に送り出し、コーナーリングの楽しみをライダーに訴え続けていたのである。
当時の技術でも、2気筒でも4気筒並みの出力の確保は容易であったし、バンク角の確保、という面でも2気筒を採用したのである。
既に、RX、DXシリーズでもクロスの6速、プライマリーキックを採用しており、サイドビューは流れるようなグラフィックの入った「動のイメージ、疾走するイメージ」で、4気筒にするか、2気筒にするか迷うユーザーに迫るのである。
ネット上でどうにかしてTX750のリヤビューを探し出してもらいたい。
実にスリムであることに気付く。上品に跳ね上がった太いマフラーが左右対称に出ており、エンジンはほんのわずかしか見えない。これが2輪のコーナーリングに対するヤマハの結論である。
TXシリーズという重量級ではヒラヒラのコーナーリング感というのはあまり感じられなかったかもしれないが、最初期のXS650に乗ったことのあるライダーの言葉を借りると「スタートダッシュで、軽量スリムの恩恵を含んだダッシュ感をモロに感じることができる。TX650とは全く違う次元の加速である。」とのことである。
筆者はTX500とTX650にはいくらか乗車したことがあるが、TX500では、とにかく高回転まで回すと、ぐいぐいと加速するのであり、それは当時の愛車のCB750FOURとは全く異なる、軽いが500の重量感のある加速であったことと、足つき性が非常に良かったことを覚えている。足つき性が良好というのは、まさかの時のライダーの安心感に直結するのである。
対してTX650は、乗車したのが最終型の80年式というのが残念であったが、実に重厚な乗り味であり、中間加速では650の片鱗を見せる乗り味であった。どちらもコーナーリングを満喫するほどの乗車ではなかったが、乗車中のいかなるコーナーリングでも、極めてニュートラルな適性を示し、ツーリング中の峠道では、その振動や排気音で、さぞや楽しかろうと思わせるには十分であったことを覚えている。
蛇足ながら、モトライダー誌の79年の11月号であったか筑波サーキットでの各社の250ロードスポーツで耐久レースでは、ヤマハのRD250の右側マフラーが度重なるバンキングの接地で、水平に一直線に30cm程度のキズが入り、ついにはそこから裂けてしまうというアクシデントが掲載されている。それでも水平に伸びるマフラーに水平にキズが付くというのはバンク時の接地がすべて同じ角度で接地するということである。これはマフラーそのものをきっちり凝縮したデザインであるためであり、ここまで凝縮して絞り上げてバンク角を確保しているのか?と非常に感銘した覚えがある。
ヤマハの結論であるコーナーリングを期待させ、その場面の連想を最も興奮させてアピールしたのは、80年発売のRZ250である。
だれがどう見ても走るイメージの、絞り上げた軽量2気筒エンジンを持つこのモデルでのコーナーリングは、ねっとりとしなやかに路面に追随するサスペンションとライダーの些細な挙動でも軽く、実に軽く反応する運動性の高さをもつ最高の出来栄えであった。筆者はあれ以上の、不思議ともいえるコーナーリング感覚をもつ2輪には乗ったことがなかったし、その驚きはこれからも色あせずに覚えているであろう。
残念ながらすでにこの時期にはヤマハは重量車にはツアラー指向のGX750を発表しており、今後の自身の重量車の行方を示していたのだが、その後、挑戦ともいえるXJシリーズで、自身の鉄則ともいえるナローなエンジン幅とバンク角の確保を行い、コーナーリングを十分に味わうことのできるモデルとしてXJシリーズを発表したのが、ヤマハの技術力の高さと、ライダーへの変わらぬ提案であり良心であろう。
最終的には高出力を確保するには4気筒というジェネシス思想を発表するのであるが、いつの時代のヤマハ車には、コーナーリングを目標においた設計がなされているのは見事であり、良心と誠実を感じるのである。
2輪のもつ楽しみの一つはコーナーリングであることは論を待たないが、実に40年以上も前にその結論を明確に打ち出していたヤマハの良心には今日では、畏敬するのみである。
いつかのツーリング先で、ヤマハの2気筒に乗る貴兄と記念写真で。ピース!

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